項羽と劉邦の時代 (講談社選書メチエ)

あまりによく知られた項羽と劉邦の物語は、司馬遷や司馬遼太郎に代表される物語の形でよく知られている。もちろんそれは物語としてとても美しいし、人物論や組織論的な教訓を多く与えてくれる。しかし本書は、このような立場ではなく、あくまで合理的かつ実証的立場から、なぜ秦が滅び、項羽でなく劉邦が勝ったのかというテーマを追究していく。あくまでその組織やシステムの性質から歴史の出来事を説明しようとする態度が一貫しており、伝統的な「司馬史観」に慣れていると、いささか面食らうかもしれない。この点が本書の白眉であるといえよう。しかし、それが完全に学術的に妥当かというと、まだ細部においてはこれからの検証が必要なのではないだろうか。今後の研究が期待される。