続 血涙十番勝負 (P+D BOOKS)

1974年に初版が講談社より発行されました。当時、実にワクワクしながらこの「血涙十番勝負」を読み進めたのをよく覚えています。「角落ち」の記譜も掲載されています。もっとも将棋を知らない方も、そこだけ読み飛ばしても面白さは変わらないでしょう。それほど人物描写や山口さんの行動は読み手を楽しませてくれるものでした。角落ちはアマチュアとプロなら手合い違いだと言われていました。それでも山口さんは善戦します。結果は本書を最後までお読みください。「序盤が五級、中盤が二段、終盤が十級」と自嘲気味に語られていますが、よく戦っていました。それ以上にとても飲んでいます。糖尿病を患っている方がこれほどお酒を飲んでも大丈夫なのかと心配するほど、酒席の状況が綴られていました。それもまた魅力の一つでしょう。それから半世紀近く経って、小学館から少し修正はしてあるものの、ほぼオリジナルの形で本書は2017年に発行されました。山口さんの語り口の天衣無縫さは健在です。だんだんと本書は歴史的価値を帯び始めています。加藤一二三八段(当時以下同様)、内藤国雄棋聖(九段)、有吉道夫八段、大内延介八段、石田和雄六段ほか、当時の棋界で活躍され、その後も第一線で活躍された棋士たちの若き日の姿が登場します。「東海の若旦那、板谷進八段」も登場します。惜しくも夭逝されました。在りし日の姿が偲ばれます。木村義雄十四世名人、塚田正夫九段、大野源一八段など、オールドファンにとって懐かしい棋士もこの「血涙十番勝負」に登場するわけで、昭和の将棋界の人物史のような趣も感じられました。プロアマ戦が今のように普通ではない時代の駒落ち戦ですから、希少性もありました。対局するのが当時のタイトル戦で登場する旅館も多く使われており、それもまた本書の魅力を高めています。本文中に当時活躍されていた他の棋士のエピソードもふんだんに登場し、それも本書の価値を高めています。当時四段に上がられたばかりの真部一男四段も登場します。掲載時は奨励会の激戦を勝ち抜いた新進気鋭の棋士でした。惜しくも夭逝されましたが、紅顔の美少年というイメージは鮮烈な印象を残しています。あとがき解説は、「担当者・ミヤ少年の思い出」として、編集者で山口さんと行程を共にし、行動も一緒で、宿泊も共にした宮田昭宏さんの思い出話が掲載されています。4年間の連載の最後で、ちょうど編集者は結婚されたわけですが、本書にそんなエピソードも載っており、編集者にとっても思い出深い一冊になったことでしょう。平成を超えて、令和の時代に、昭和が蘇ってきたかのようです。当方も学生時代に本書を読んだわけですが、こんな本の再刊があるからこそ、読書はやめられません。